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2019年03月20日

はなむけの言葉


めでたく卒業・修了を迎えられた皆さん、おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。
皆さんが授与された卒業証書や修了証書は、奈良佐保短期大学で、「なりたい自分像」に向けて、限りある時間の中で、皆さんが努力した成果であるとともに、それを支えていただいた多くの方の熱い思いが込められています。感謝の気持ちとともに大切に受け止めておられることでしょう。
皆さんはこれから、本学で学んだ知識や技術を活かして仕事に携わる人、さらに学びを深めるために進学する人など様々ですが、社会の状況は日々、変化し続けています。そのためにも、卒業後も、専門職としての知識技術などその場やその時に必要とされる資質を高めて、実践力や判断力を磨くなど、謙虚さを忘れずに社会の期待に応えていただくことを願っています。

もう少しで「平成」と呼ばれた時が幕を閉じ、新たな元号の時代へと移り変わろうとしています。平成の30年は、阪神淡路、東日本、熊本、北海道などの大震災、中国地方の水害など、人の力では対処できない自然災害に見舞われました。
劇作家の山崎正和氏が、このような状況の中では、人が、自分の生き方を変え、環境と運命に適合していく知恵が必要となるが、平成の日本人は、災害に素晴らしい反応を見せ、全国規模の、市民の自発的支援活動が一般化して、年齢や階層を問わぬ市民が、私費で参加し、それを組織する専門家の民間活動団体(NGO)も結成された。明治以来の近代社会の中で、血縁地縁によらない相互扶助が習慣化した最初ではないかと、ある新聞で論考されています。
また、清潔ではないパリの道路を、在住の日本人たちが見かねて自発的に清掃を始め、パリ市民の否定的な反応の中でも、寡黙さと愚直さで、おそろいのエプロンをして頑張っていると、フランス人が参加し始め、彼らの運動にもなっているということを聞いて、明治に輸入された「公共」の観念が、平成の終わりに、身に付いた習慣となり、誇るべき公共意識として国民に定着していると感動されています。

数年前に、私が、大学を紹介するためにベトナムを訪問した時、幼稚園等も経営されているベトナム人の理事長様から、日本の被災地域で、水や食料など支援物資を、整然と並んで受け取る日本人の姿に感動され、このような行為は、幼児期の教育の為せる技であろうと思われて、日本の幼児教育のあり方について指導を求められたことがありました。
このような相互扶助や公共性の基となる、人と人とのつながりの大切さや他者への思いやりや優しさを、皆さんは本学での授業や様々な活動の中で、しっかり身につけるとともに、それを子どもたちをはじめ人に伝える術を体得されたことと信じています。
平成30年度、本学では、短期大学の使命の一つである、地域とつながり地域の発展に寄与する活動の一環として、「地域防災避難訓練」を、命を守る活動として、地域の人たちと一緒に、教職員を始め学生の皆さんと実施することができました。
「マサカ」の時に、自分自身が怪我をしないで命が助かるように、また、自分の周囲の人たちが怪我をしないで、その命が助かるようにするためには、どのように考え、どのように行動したらいいのかが求められています。
皆さんは、それぞれの職場や地域で、災害時に適切な行動が取れるだけではなく、地域振興のために自分には何ができるのかを考え、「汝、何のためにそこにあるや(あなたは、何のためにそこにいるのですか)」を、常に自分に問いかけながら、相互扶助や公共の観念をもって、力を尽くすことができる人材として、活躍してくれることを期待しています。

人生という正解のない道を、生かされている命を大切にして、ある時は主役として、また、ある時は脇役として、「成功の反対は失敗ではなく、チャレンジしないこと」と表現していた作家、加賀乙彦氏の言葉を胸に、悔いなく歩まれることを心から願い、はなむけの言葉といたします。
                                    (平成30年度卒業式式辞より抜粋)